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親からの呪いの言葉

子どものころから、家にはいくつかの「呪いの言葉」があった。
「呪いの言葉」とは、相手を束縛したり苦しめたりするような否定的な言葉のことである。繰り返し使われることで、相手の思考や行動を制限してしまうことがある。

目次

「よそはよそ、うちはうち」

周囲の家庭とどんな差異があろうとも親の権力で方針を正当化してしまう、魔法の(呪いの)言葉である。この言葉があると、周囲に見えるものを羨ましがること全般ができなくなる。また、親はだいたい親にとって都合のよいときだけこの言葉を使いがちである。
「〇ちゃんはあんなに立派に兄弟の面倒をみているのに青ねずみときたら・・・」
に対して
青「よそはよそ、うちはうちでしょ。」
などと言おうものなら、大目玉確定である。

余談になるが、周囲との比較が麻痺されてくると、自身の立ち位置の正確な把握が難しくなってしまう。実際、自分はだいぶ大きくなるまで、「自分はよその子とは比べ物にならないくらい立派な教育を受けているんだ(だから多少の窮屈さには耐えるべきである)」と思い込んで育った。

「外で家のことを話すんじゃないわよ」

外で家のことを話すのは「下品なこと」だと教えられ、これを禁じられていた。
しかし、その実は、家庭を密室化することに一役買っていたのではないだろうか。

実際、この呪いのため、私は家庭内の悩みごとを周囲に相談することがなかった。また、それ故に、自身の置かれた状況が「普通でない」ということにも長らく気づかずにいたのだった。

『ほしい』を禁じる
「言わなくてもわかっているんだから、いちいち言わない」
「物欲しそうな顔をしてはいけない」

父は武家の出身で、「武士は食わねど高楊枝」という言葉通りのところがあったので、とにかく、「欲しがる」ということに過敏に反応した。また、母も、「~ほしい」という言葉を毛嫌いした。

私は、幼いころからほとんどおねだりをしたり、自分の希望を言ったりしない子だった。言うのを禁じられていたからである。時々勇気を振り絞って希望を伝えることがあると、
母「青の話は、『~ほしい』ばっかりね」
と封じられるのだった。
母「どうぞと言われたものだけを受け取りなさい。」

こうして私は自己主張のできない子に育っていった。これの後遺症は、大人になってからも残っている。

医師になってからも、指導医から何度言われたかわからない、
「他の先生はみんなどんどんやりたがってチャンスを掴んで自分の経験にしていくのに、なんで君はそんなに消極的なんだ?」
中心静脈カテーテルや腰椎穿刺などの手技、主治医経験、学会発表・・・。
私だって、やりたい気持ちは十分にある(でなければ、そもそも再受験で医師など目指さないだろう)。しかし、その気持ちを口に出せない。
「私もやりたいです!」だなんて、そんな言葉、私には言えない。その言葉は、私の育った家では「はしたない言葉」だったのだから。

「兄弟仲良く」

兄弟仲良く、という割に、指導されるのは姉の私だけだった。
しかし、実際は、仲良しは、一人の努力ではできない。

子どもながらに、「仲良く」ではなく、「仲良さそうに」が正しいのではないかなーと思っていた。

類語としては、学校でもよく聞く「みんなで楽しく遊びましょう」がある。
あれも「楽しそうに遊びましょう」の間違いではないかなーと思ったものだ。だって、楽しいかどうかなんて、人それぞれでしょう。「楽しそうに」だったら努力のしようがあるものだけれど・・・。

「紫色なんて、寂しい人の色なんだから、やめなさい」

母のこの言葉のために、私はクレヨンでも絵の具でも、紫色が使えなくなった。紫色の服を着られるようになったのは、中年期になってからである。

親は、このような言葉で色の使用を禁じるのではなく、子どもの使用する色の傾向を見た時に「この子は寂しいのかな?」と気づいてやることに知識を使った方がよい。
(そもそも知識としても正確性に欠ける。紫色と寂しさに単純な一対一対応はない。)

「そういう言い方嫌い」

この言葉も、都合の悪い発言を封じ込める魔法の言葉である。親からこれを言われたら、もう後を続けられない。真面目な話も、悲痛な叫びも、この言葉で退けられた。しかも、ここに教育的な配慮はなく、完全に親の側の好き嫌いによる言葉である。

好き嫌いの話をするならば、子ども側にとっても嫌いな言い方は多々あった。例えば、この記事に挙げたいくつかの言い方である。しかし、子どもは不利だ。
「お願いだからその言い方やめて」と何度も頼んだが、親が言い方を改めることはなかった。
「どうせ子どものわがままだ」と把握されれば、真に受けることなく流されてしまう。

20年後、自宅の引っ越し準備をしていた時のこと。疲れ切った表情の母に向かい、弟が
「その顔嫌い」
と言い放っていた。子ども時代さんざん親の決まり文句を耳にして育ったのだもの、まあ、そうなるわな。

青ねずみ

逆襲~☆

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この記事を書いた人

虐待サバイバー医師です。内科医兼精神科医です。医学部再受験の時のことや、自身の歩んできた道、思うことなどを書いていきたいと思っています。

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